クラウドソーシングで自分を安売りするな

トップイメージ:クラウドソーシングで自分を安売りするな

コロナ禍でシェアリングエコノミー市場が大きく伸びているといいます。シェアリングエコノミーとは、 総務省の「平成27年度版情報白書」では、「個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービス」と説明されています。本稿では、シェアリングエコノミーのうち、最近とくに注目されているクラウドソーシングを取り上げます。

株式会社情報通信総合研究所の「2021年シェアリングエコノミー調査報告書」によると、シェアリングエコノミーは、新型コロナ発生前の予測値11兆円を大きく上回って、14兆円に達する見通しであるということです。その背景には、[在宅でシェアサービスを活用するライフスタイルが広がったことがあり、今後は多様な働き方・住み方等に応じたスペースやスキルの市場拡大が見込まれる」といいます。

【報道発表】2021年シェアリングエコノミー調査報告書を販売開始
-新型コロナ後の市場規模、ユーザの特性等についてアンケートを元に分析-

当初、シェアリングエコノミーの代表格は、airbnbなどのシェアハウス(民泊)や車のカーシェアリングなどでしたが、コロナ禍で伸びたのは、専門的なスキルを要する労働力の売買です。

クラウドソーシングのしくみ

典型的なクラウドソーシングでは、まず、発注者(買い手)が案件とおおよその予算を提示し、それに対して、スキルのある受注者(売り手)が見積します。そのなかから、発注者は受注者を選びます。そして、商談が成立したとき、クラウドソーシング(システム運営者)が発注者から契約金額を仮払金として徴収します。そして案件が納品・検収された時点で、クラウドソーシングから受注者に、契約金額の何%かを手数料として差し引いた金額が支払われます。

通常、発注者も受注者の登録料は無料で、商談も匿名のまま行えます。そのため、小遣い稼ぎのしたい会社員や主婦や学生も気軽にできる副業としてもてはやされています。

なお、クラウドソーシングでは、システムが提供する通信手段以外の方法で、発注者と受注者が連絡を取り合い、業務に関する支払いをしたり、業務を委託したりする行為を禁じています。

クラウドソーシングの歪み

すぐれたスラッガーがいつもホームランが打てるとは限らないように、スキルのある人が常に100%の力を出せるとは限りません。案件に対する理解不足で満足のいく結果が出せなかったり、逆に、案件に興味を示してふだんの実力以上の仕事をしたりすることもあります。
アスリートが監督やコーチの一言で、自分の潜在力に目覚めるように、働く人も現場にいる人のことばで底力を発揮できたりします。
この事実をクラウドソーシングは無視し、不動産や動産を貸し借りするように働く人の力を取引することで歪みが生じ、以下3つの問題となって浮上しています。

  1. 発注者と受注者の著しい不平等
  2. 極めて安い報酬
  3. 不適切な案件

1. 発注者と受注者の著しい不平等

AとB二人の受注者がいて、二人とも同じ仕事をこなす能力があるとします。どちらがスキルが上なのか、発注者には判別がつかないのがふつうです。そこで実績を比べたり、過去の評価を参照したりわけですが、一番大きくものをいうのはやはり価格です。
ですから、受注者はできるだけ価格を切り詰める必要があります。とくに新参の受注者はともかく実績を上げようと、無理な価格で受注しがちです。しかも、受注額の何%は手数料でとられるので、さらに利益が減ります。
一方、発注者にとっては、手数料がいくらであろうが、関係なく、支払総額を見比べて受注者を決めます。
そして、受注者が血を流して受注した金額が、次に発注者の参考金額になります。

発注者は買い手なので、もともと有利な立場にあります。加えてクラウドソーシングでは受注者はいくらでも見つかるので、発注者は好き勝手に受注者を取り換えることができます。

クラウドソーシングのシステム内のコンタクトしか認めないことも、受注者には不利に働きます。
発注者と受注者が外部メールで詳しく頻繁にやり取りしたり、直に会ったり、オンライン会議で打ち合わせすることによって、緊密に連携することができません。緊密な連携が取れないと、行き違いが生じ、仕事に失敗することがあります。そんなとき、責められるのは受注者です。

クラウドソーシングがシステム外でのコンタクトを嫌うのは、当初システムで出会った発注者と受注者がシステムを通さずに仕事の依頼/受託をするのを嫌うからです。初回の依頼の場合、クラウドソーシングのおかげといえますが、同じ発注者が同じ受注者に依頼するリピートの場合は、受注者の功績であり、その場合までも、クラウドソーシングが手数料を請求するのはガメツいのです。

2. 極めて安い報酬

クラウドソーシングにはWEB記事の執筆のような「1文字0.1~0.5円程度の安価な案件」が多数掲載されている wikipedia「クラウドソーシング」

クラウドソーシングでは、受注者にとっては、システム内での受注実績こそがアピールポイントになります。そのため、上記のような案件でも、実績ほしさに「1文字0.1円」の見積を出す人がいたります。それが結果として、度を越した発注単価の低下につながります。

このことを踏まえ、クラウドソーシングの紹介記事では、よく「専門性の強い分野の案件でなければ儲からない」という指摘がなされますが、これも正しくはありません。

例えば、システム開発などの極めて専門性の高い分野でも、予算額はかなり低く抑えられています。
システム開発において、発注者も受注者も、最初から、案件に必要な工数・作業量を正確に把握できるわけではありません。目算が狂い、あとから何らかの追加作業が必要になったりすることもあります。ですから、通常は、多少のりしろをつけて見積もりします。
ところがクラウドソーシングでは、見積に不慣れな受注者もいて、必要なのりしろをカットし、無理な予算案に合わせようとする人が必ずいます。作業が当初の目論見通りに進めばいいのですが、あとから作業量が増えたとき、かなり困ったことになります。

また、発注者の無理解のせいか、ありえないような安い予算設定がなされたりすることもよくあります。
逆に、受注者は案件を誤解しているのではないかと思うような金額で落札されることもあります。

通常は発注者・受注者間の行き違いを防ぐため、クライアントと開発者が面談して話を詰めます。クラウドソーシングでは、これが禁じられていることは先述したとおりです。

分野を問わず、発注単価が極めて低いのは、クラウドソーシング大手2社の年間平均発注単価からも明らかです。

 発注件数発注単価
クラウドワークス35,012件31.7万円
ランサーズ33,000件19.4万円

Q. 上場したばかりのランサーズとクラウドワークスの1クライアントあたりの年間発注単価の差はどのくらい? より筆者作製

3. 不適切な案件

上記の述べたように、発注者は匿名のまま優遇されるため、社会的に不適切な案件を生むようになりました。

野党を叩き嫌韓を煽るブログ記事やYouTube動画、1本数十円のクラウドソーシングで大量生産されていた

クラウドワークスで「共産党に票を入れる人は反日」ブログ記事作成依頼、掲載中止に

このほかにも、ECサービス・口コミサイトのレビュー執筆、各種ランキングサービスを狙ったやらせなど不適切な案件の委託は後を絶ちません。

クラウドソーシングでは、こうした案件を利用規約で禁止しているので、おおぴらに、案件として登場することはなくなりました。しかし、発注者は直接依頼という形で、こうした案件の依頼メッセージを受注者に片っ端から発信することは可能で、実際行われています。

当然、こうした行為は規約違反ですが、メッセージを受信した受注者が通報しない限り、クラウドソーシングは不正を感知できません。一応、不正通報フォームはあるにはあるのですが、あまり役立っているようには思えません。

自分を安く売るのはやめよう

クラウドシーソングを上手に使って、荒稼ぎしているという人たちもいるかもしれません。
しかし、それはその人にスキルがあるからだけでなく、早期に実績を積み上げられたといった幸運に恵まれたからです。クラウドソーシングはそうしたラッキーな人たちをやたらに持ち上げますが、それは少数派であり、後発の受注者が目指して得られる境遇ではありません。後発の受注者には奴隷労働でもしない限り、実績を作れず、圧倒的に不利だからです。

確かに仕事はたくさんあるように見えるかもしれません。
しかし自分と同じようなレベルのスキルを持った人もたくさんいるのです。
そして仕事は低予算。
wikipedia の著者は「労働力の搾取」と呼んでいますが、それは正確ではありません。
受注者自身が低予算を受け入れ、自分で自分の首を絞めながら、なんとか仕事を取ろうと努力した結果なのです。
その努力を別の方向に向けてはいかがでしょうか。

例えば、顧客と顔の見える関係を作れる地元のマッチングサイトを利用するとか、独立して自分のサイトを持ち、自分の力に見合った値付けをして、顧客を集め、無理のないペースで仕事をするとか。

まとめ

クラウドソーシングでは、発注者と受注者が著しく不平等で、受注者は低すぎる報酬に甘んじなければなりません。加えて、社会的に不適切な案件も後を絶ちません。クラウドソーシングで自分を安く売るのをやめ、地元のマッチングサイトを利用したり、自分でサイトを立ち上げる名でして、顧客と顔の見える関係を築くことを強くお勧めします。

著者紹介

管理人
津田頼子 Tsuda Yoriko

Webデザイナー&フロントエンドエンジニア。
有限会社デジタルエイド代表。

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